ベーシックインカムに所得制限? 日経トップ記事の誤解
こんにちは、ベーシックインカム警察です。土曜日の日経1面のトップに看過できない記事が掲載されているため注意喚起をしたくブログにします。
所得制限を前提にした試算は不適当
記事は、第一生命経済研究所の星野氏による試算として所得制限のケース別でベーシックインカムに必要な予算を紹介しています。
希望は消費拡大に向けベーシックインカム(最低生活保障)の導入も打ちだした。同研究所の星野卓也氏によると、月に6万5千円を支給する場合、現役世代の1割弱を占める年収200万円未満の世帯に対象を絞っても年5.9兆円が必要。300万円未満なら11.5兆円、400万円未満なら18.3兆円と必要な財源は増える。
この試算は所得ごとに対象者を絞ってしまっています。これはベーシックインカムの最大の利点である全対象者への一律給付というシンプルさを損なってしまう、妥当性の極めて低い試算だと評価せざるをえません。
たとえ、「所得制限を設けたとしてもこれほどの予算が必要である」という意図のもと前提が組まれたとしてもそれがベーシックインカムの予算という文脈で紹介されている以上、読者に誤解を招く可能性が高く、不適当であるといえます。
ベーシックインカムの定義
ベーシックインカムの比較的広くコンセンサスの取れた定義は下記を参照してください。
定期的な現金での給付で、資産調査や労働要件なしにすべての個人に無条件に提供されるもの。
[ベーシックインカムの国際組織BIENが公開している定義](http://basicincome.hateblo.jp/entry/2016/11/13/international-biens-clarification-ubi)
意図的なのか、単なる認識間違いなのか、同日の別記事でも「低所得層に現金を配る最低生活保障(ベーシックインカム)」と紹介するなどミスリーディングが散見されます。たしかに高所得層はベーシックインカムの給付よりも税負担のほうが大きくなることは十分考えうるのですが、それをもって「低所得層に現金を配る」と表現するのは不正確です。
所得制限を設けた場合のデメリット
今回の反省を活かすために、あらためていかに所得制限がベーシックインカムを台無しにしてしまうかを考えてみましょう。ここでは代表的な2つの問題点をあげてみます。
- 労働のインセンティブを歪めてしまう。現行の扶養控除による「105万円の壁」や「130万円の壁」と呼ばれる歪みと同様。
- 所得調査が必要になる。給付にあたっての行政コストが増大する。
もし予算を低く抑えたいのなら
世界各地で実験が行われている([OECD発行の報告書](http://www.oecd.org/employment/emp/Basic-Income-Policy-Option-2017.pdf))ものの、ベーシックインカムはまだ得体の知れない政策ではあります。ついては、まずは少ない予算で始められる「小さく生み、大きく育てる」方針を模索するのは悪くない落としどころでしょう。
だからといって所得制限や労働要件なんかを設けてしまうと先述の通り社会の経済活動に歪みをもたらしてしまいます。そこで、「こんな制限ならばベーシックインカムインカムの利点を損ないにくいので許容範囲だ」という案を2つほど掲げておきます。
- 給付額を少なくする。月額3万円くらいから給付を開始させる。ただし、単体で十分な額の給付ではなくなるため、より多くの既存の社会保障制度と並存させることになり一時的にではあれ行政コストが逆に肥大化する恐れがある。
- 年齢制限を設ける。[ベーシックインカム案 - ニコ百](http://dic.nicovideo.jp/id/5438825)の試算で未成年への給付は3割に抑える形で採用されている。年齢は生年月日だけで計算可能なので把握が容易である。一種の「差別」ではあるが若年者への年齢制限は投票権や運転免許など社会で広く受け入れられている。ただし、少子化対策の効果は薄れる恐れがある。
以上です。