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ベーシックインカム 101

海外記事の翻訳や話題になっているニュースを紹介します

‪インフレを引き起こさずにベーシックインカムを実現するには‬

ベーシックインカムとインフレの関係

ベーシックインカム (UBI) は物価上昇 (inflation) を引き起こすのか? 『Utopia for Realists』の著者であるラトガース・ブレグマンの Quora での回答の要旨は次の3点だ。

  • ベーシッカムインカムがインフレを引き起こすかは原資の調達方法による
  • たんに紙幣を刷って配るヘリコプターマネーと呼ばれる方法の場合は間違いなくインフレを引き起こす
  • 現行の社会保障制度と同じように税を財源とした場合は、財とサービスに見合った分の資金しか出回らずインフレにならない
    • ただし、それは納税者が働くのをやめてしまうと成り立たなくなり、インフレを引き起こす
    • 実際のところ人はベーシッカムインカムを受け取っても働くのをやめない
    • その科学的なエビデンスについて著書『Utopia for Realists』にて3章分のページを割いて書いた

Ref. Won’t a universal basic income raise inflation? - Quora

収支のバランスが取れればインフレは起きない

著作の宣伝は置いておくとしても、彼の回答は議論のベースとして優れている。彼の主張は、長期的に安定してベーシックインカムを供給するには、人々の手に渡る量と同額を税金で賄うしかないというシンプルなものである。

直感的には、下掲のグラフが理解の助けになる。図中の2つの三角形の面積が等しいとき、インフレは起こらない。

f:id:ymkjp:20170423140733j:plain

Ref. Finland plans to give every citizen 800 euros a month and scrap benefits : worldnews

この図はフィンランドでの1例だが、ベーシックインカムが支出の1つの形態でしかないのと同じく、図中の所得税 (Income Tax) も1つの徴税形態でしかない。例えば所得税でなくとも相続税などより時間軸の長い資産課税も考えうる。いずれにせよ、収支さえ帳尻があえばインフレは起こらない。

ここで1つ留意したいのは、税額はトータルで支出と帳尻が合いさえすればよいということだ。極論では、人口のトップ1%が税収のほぼ全額を賄っていてもベーシックインカムはインフレなしに成立するともいえる。これはロボットによる自動化がもたらす資本の集中を考慮すればそれほど非現実的なシナリオでもないだろう。

こうして見てみると、ベーシックインカムの実現には再配分の要件の醸成が避けられないことがよく分かる。

そもそもインフレは避けるべきものなのか

インフレは人々の財産を毀損する忌むべき存在だろうか? テーマを絞るため当記事ではインフレ自体の是非は細やかに議論しないでおくが、インフレは大まかに次の通り分類でき、どうやら前者の状態が望ましいらしいと述べるにとどめておく。

  • 年率 1-5% くらいの「マイルド・インフレ」
  • それ以上。年率 26% 超の物価上昇「ハイパー・インフレ」を含む(他国への賠償金や無計画な貨幣の増発などが要因)

ピケティ節でフランス国内の足並みそろわず

f:id:ymkjp:20170305222645j:plain “Move away from the comfortable abstractions that often characterise this debate” – FRANCE: Piketty’s comments on basic income cause confusion | Basic Income News

一般の理解とは裏腹に、ピケティは「いわゆるベーシッカムインカム」を支持しておらず、例えば BIEN が定義しているようなベーシッカムインカムは「一部賛成」でしかないそうだ。

あらためて BIEN の定義を知りたい場合は下記の過去エントリを参照してほしい。

basicincome.hateblo.jp

記事ではピケティの見解はフランス国内に混乱をもたらしているとしている。一見、細かい制度論での齟齬とも取れるが、しかし一方で定義から外れていることは明らかであり、今後の展開を注視していきたいところだ。

スイス国民投票の立役者 ダニエル・シュトラウプ

http://m.dw.com/en/basic-income-for-the-swiss/a-19016377 Basic income for the Swiss? よりダニエル・シュトラウプ氏

FiveThirtyEight の記事 What Would Happen If We Just Gave People Money? にてスイスでベーシックインカムの是非が問われた国民投票のストーリーが紹介されている。スイスの著名実業家のスピーチで感化されたシュトラウプが、数百人のボランティアとともにスイスの憲法改正のために必要だった126,000の署名を集めたそうだ。

f:id:ymkjp:20170305214856p:plain What Would Happen If We Just Gave People Money? | FiveThirtyEight

同記事に掲載の図表。複雑な制度により「崖 (cliffs)」ができてしまっていることから貧困層向け福祉政策の非効率さが見て取れる。

Behind The Swiss Unconditional Income Initiative - Business Insider にて掲載されている彼のインタビューも2点ほど抜粋して紹介してみよう。

BI (Business Insider): 2,500スイスフランの金額はどのように決まったのですか?これはスイスでどのような生活水準に相当しますか?

DS (ダニエル・シュトラウプ): それはスイスのどこに住んでいるかによって決まります。平均的には、適度なライフスタイルで十分です。

補足すると、「平均的には」というのはポイントになりそうだ。つまり便利で物価の高い都市部に住むにはベーシッカムインカムで受け取るよりも多くの賃金をえておく必要があるということだ。これは裏を返せば、物価の安い地方へ移住するインセンティブがあるということも意味することとなる。

BI: 最低所得がスイスの政府支出に与える影響は?

DS: スイスの無条件所得は、GDPの3分の1が無条件に配分されることを意味します。しかし、私はそれがこの社会に住む人々にすぐに分配されるので、政府の支出としてそれを数えなくてよいと思います。それは、各個人がどのようにお金を使うかを決めることができるので、政府の権限が少なくなることを意味します。

ベーシッカムインカムがもつ、「小さな政府」志向な側面も指摘されていた。見かけ上の予算よりも政府に委ねられる執行の裁量権は小さい。

負の所得税とベーシックインカムの違いは?

手短に要約すると、負の所得税 (Negative Income Tax; NIT) とベーシックインカム (Unconditional Basic Income; UBI) は収支面でまったく同一の制度*1だが、認識面で違いはでてくるというのがスコットの意見だ。

詳しくは 「なぜ負の所得税ではいけないのか」に対する回答 を参照のこと。

f:id:ymkjp:20170502150746p:plain

図は Fair Tax and Negative Income Tax より引用

なお、負の所得税を直感的に理解するには上掲の図が役立つ。収入(青線)に比べ、再配分後の所得(赤線)の傾きが穏やかになっていることが見て取れる。つまり、所得再配分により格差が是正されている。

日本円に当てはめてイメージしてみると、年収300万円以下のひとは税の適用後に所得が増加しており、収入が0の場合でも100万円/年は所得が下限として保証されていることになる。

ここで大切なのは赤線の傾きが0を下回らないことだ。この傾きが0を下回る、つまり下降線となると「働かないほうが得」というインセンティブが働いてしまう。この弊害は線分のかたちから「崖 (cliff)」と呼ばれる。

残念なことに、2017年時点の日本の社会保障制度にも崖は存在する。いわゆる社会保険の「130万円の壁」と「106万円の壁」と呼ばれるものがその代表例だ。

ベーシックインカムの定義を刷新 国際機関 BIEN が発表

ベーシックインカム (BI) 推進の国際機関であるベーシックインカムアースネットワーク (BIEN) がBIの定義を明確化した*1

ベーシックインカムの定義

ベーシックインカムとは
定期的な現金での給付で、資産調査や労働要件なしにすべての個人に無条件に提供されるもの。

[Basic Income is] “a periodic cash payment unconditionally delivered to all on an individual basis, without means test or work requirement”

ベーシックインカムの5つの特徴

  1. 定期的 (Periodic): 一定の間隔で支払われる (例えば毎月ごと)。1回限りではない。
  2. 現金給付 (Cash payment): 交換に適しており、受領者が何に費やすか決定できるものによって支払われる。つまり、食べ物やサービス、特定の用途に限られた引換券などは該当しない。
  3. 個人向け (Individual): 個人に支払われる。世帯への給付ではない。
  4. 普遍的 (Universal): 資産調査なしにすべての人に支払われる。
  5. 無条件 (Unconditional): 労働要件や働く意思の実証なしに支払われる。

BIENが支持するベーシックインカム

あわせてBIENでは定義とは別に、次のようなベーシックインカムを積極的に支持することが決議された。

  • 安定的な量と頻度をもつ
  • 十分に高い
  • 他の社会事業との協調性をもつ
  • 物質的な貧困をなくすための政策戦略である
  • すべての個人が社会的文化的な参加を可能とする

また、恵まれない、不安的な、低収入の人々の状況が悪化するような社会事業や給付の変更には反対するとしている。

ベーシックインカム支持を表明している著名人たち(随時更新)

起業家*1

サム・アルトマン

Sam Altman in 2009.jpg

  • Y Combinator 社長

blog.ycombinator.com

イーロン・マスク

  • Tesla 創業者
  • SpaceX 創業者

basicincome.hateblo.jp

アンドリュー・グ

  • Baidu 主任科学者
  • Coursera 共同創業者

ビル・グロス

fortune.com

レイ・カーツワイル

  • 未来学者
  • Singularity University 共同創業者

www.youtube.com

アルバートウェンガー

Continuations : Basic Income: The Biggest Question (Voting for...

ティム・オライリー

  • O'Reilly Media 創業者

medium.com

クリス・ヒューズ

medium.com

ベーシックインカムはインフレを引き起こすのか

元記事: Will basic income cause inflation? | BIEN

学生たちの主張

先日、NCCU*1で行われたBIについてのディスカッションで司会を務めた。参加者はさまざまな国からの学生で、ベーシックインカム (BI) がインフレを起こすか否かで激しい議論が行われた。一部の参加者たちは購買力の向上は商品の需要を押し上げ、結果価格も上昇させると懸念を示した。物価の上昇はBIから得られる人々の購買力を徐々に下げていく。

学者たちの見解

この主張に根拠があるのかを、私は3人のBI専門家に確認を取った。『ベーシックインカムの倫理と経済理論』*2の共著者たちに、研究からBIとインフレについて尋ねた。

答えは、「場合による」だった。

総じて、物価は上昇しうるが、それはBIがどう実施されるかによるという点で学識者たちの意見は同じだった。

BI研究者はまだ誰もインフレに注視してこなかったし、物価への影響を測る十分な実験も行われたことがないため、体系だった知識は得られていない。

インフレを引き起こしうる条件とは

モンマス大学*3の経済学および金融学の教授だったスティーブン・プレスマン博士は、「理論に頼らずにインフレが起きうるかの結論を出すことはできないだろう」と語った。

ニューヨーク市立大学ハンター校*4ソーシャルワーク・シルベルマン学部准教授のマイケル・ルイス博士は「複数の変数がインフレには影響する」と付け加えた。仮にBI導入後に政府支出が削減されれば、インフレに上下両方の影響を同時に及ぼす。

プレスマンはBIによるインフレには「経済全体の状態とBIがいかに大規模に実施されるかによる」と述べた。

プレスマンによると、いくつかのシナリオが考えうる。

労働者と企業がもたらすインフレ要因

経済が完全雇用に近ければBIは「雇用よりも物価を押し上げる」。また、BIにより獲得される収入は貧困層の人々に行き渡ることから「低収入の人々は追加で得た収入を使い切ってしまいがち」であることから総支出はインフレとともに上昇していく。

供給側の視点からは2つの重要なインフレ要因がある。税金と労働者だ。

仮にBIの財源が売上税あるいはVATから拠出されるとすれば、物価上昇が起こる。また、BIが賃金上昇圧力となればなるほど、企業は「賃金上昇コストを商品価格の上昇によって顧客に転嫁しようとするだろう」。

インフレへの過剰な恐れは禁物

一方、BI以外の政府支出の削減が財源となれば、「インフレへの影響はほんのわずかゼロにとどまる」。

BIEN共同議長でジョージタウン大学SFSカタール*5准教授のカール・ワイダークイスト博士はデンマークの経済はBI並みの福祉が労働者の利益を奪い去ってしまうようなインフレを引き起こしていないことを示しているという。

「BI支出が特別に他の出費よりもインフレを起こしやすいということはまったくない」とワイダークイストはいう。「BIによって生じるインフレ圧力を税金や借入によって中和することは、軍事費や他の出費の場合よりも容易である」。

プレスマンによると、インフレには経済にとってそれほど悪くないものもある。1990年代日本のデフレスパイラルのときのように、インフレは経済を助ける役割もするからである。

変動性のベーシックインカム

政策立案者は、BIの給付金を経済状況に応じて調整することを考えてみれば有益かもしれない。

「変動性BIも考慮に値する。失業が上昇するにつれて増加し、経済が完全雇用に近づくにつれて下がる。これはいかなるインフレ圧力も減らすだろう」とプレスマンは述べた。

さらなる研究は依然必要であるが、インフレ価格には多数の要因があるためBIは実質的にインフレーションに寄与しない。

「政策問題や財政および金融政策は、より平等な社会政策が低いインフレとの一致を確実にすることができるだろう」とワイダークイストが語った。

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basicincome.hateblo.jp