ベーシックインカム 101

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給付付き税額控除でベーシックインカム

実務的にベーシックインカムは「給付付き税額控除」として落とし込みやすいと言われている。そこで所得税の控除での実現方法を考えてみた。


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■給付付き税額控除でベーシックインカム

実現にあたっては大きく3つの要点がある。

  1. ✅所得控除が課税額を超えたら年末調整と合算して翌年の月次の給付金とする
  2. ✅所得控除から税額控除に切り替える(低収入であるほど有利になる)
  3. 基礎控除をターゲットの金額に達するまで毎年拡大していく

 

ターゲットは月額10万円ほどを想定している。これらの変更により既存の仕組みを活用してベーシックインカムが段階的に実現できる。こんな制度はベーシックインカムでないとの指摘があるかもしれないが、国際組織BIENによる定義は満たしている。

 

ベーシックインカム101 on Twitter: "#ベーシックインカムの定義 定期的な現金での給付で、資産調査や労働要件なしにすべての個人に無条件に提供されるもの。 https://t.co/z0Mm6YDDza"

 

今後はベーシックインカムの支給額と財源をバランスさせるなど、より具体的な試算を行ってみたい。

 

 

 

ベーシックインカムによる富の再分配

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【目次】

 

■市場原理の機能不全を防ぐ

介入なしの市場原理のもとでは資本家に富が集中していくことが指摘されている。例えば近年で広く知られた研究結果としてはトマ・ピケティによる『21世紀の資本論』がある。

資本家に富が集中すると労働者が購買力を失い、市場が機能不全を起こす。そこに政府による徴税と再分配を設けることを考える。そうすると単に低所得者の生活が安定するだけでなく、ボリュームゾーンにあたる中間層の労働者が購買力を増して経済を循環させることが期待できる。生活基盤があれば、次世代を生み育てる環境に繋がる。また事業を起こし貢献する者も増えるだろう。

 


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このように富の格差の傾斜をなだらかにすることで市場原理の機能不全を防ぐという意味では、ベーシックインカムは資本主義的な政策と言える。

 

また理論的な補強として『価格を通じて需要と供給が一致するような競争的な市場は、功利主義者が唱えるような「最大多数の最大幸福」を達成することができない』とする最近の経済学の知見も興味深い。

 

 

 

■給付付き税額控除

実務的にベーシックインカムは「給付付き税額控除」として落とし込みやすいと言われている。

ベーシックインカムと聞くと毎月数万円が口座に振り込まれるような印象を受けるが、給付付き税額控除となると所得税の税率ごとに給付額が変わる。つまり税制しだいでは高所得者は負担のほうが大きくなることがありうるのだ。例えば都内で正社員として働くような人であれば「年末調整で返ってくる額が増えたな」あるいは「天引きが減って手取りが少し増えているな」くらいの認識に落ち着くと考えられる。

これを踏まえると、一律の金額が給付されるとの誤解を避けつつ政策パッケージの利点が認識されるよう宣伝を行うことが望ましい。例えば「所得の中央値に位置する人の場合」、「最低賃金でフルタイム働いている場合」などのモデルケースを提示していくことは有用だろう。

 

 

■実際の給付額は月10万円?

ベーシックインカムの議論には給付額とそれを賄う財源の話が付いて回る。ここでは算出の根拠となる既存の社会保障制度について考えてみたい。

例えば日本の場合、生活保護の3級地の額が参考値として有効ではないか。生活保護は世帯単位であり個人単位のベーシックインカムとは相いれないが参考にはできる。具体的には、おおよそ1人あたり8〜10万円となる。ここから障害者への加算は別立てにして、物価の違いは自治体ごとに差額を加算することが考えられる。実質的には税負担と相殺されるので、例えば中央値くらいの収入を得ているひとが10万円貰えるわけではないことに留意したい。

 

 

■応能負担への道筋

再分配を主旨とすれば財源の候補は絞られる。フロー課税としては所得税(個人・法人)を中心に据え、ストック課税としては相続税が候補にあがる。

特に金融資産(特に株式)から得た収益の分離課税はBIに関係なく直ちに廃止すべきだろう。日本では長らく年間所得が1億円を超えると実効税率が下がる「逆転現象」が起きている。高所得者は本来45%のところ分離課税によって20%しか納めていない*1

 

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申告納税者の所得税負担率

 

一方、所得や資産などの直接税は課税対象を把握する難易度が高い特性がある。むろんその特性自体を理由に財源から外してよいはずはなく、マイナンバー制度の普及を含め執行機関の徴税能力を高めていくことが望ましい。また特に法人税については国際協調が欠かせない。個人に対しては国外転出時課税が整備されているが法人成りによる迂回がありうるので、そこも含めた国際的なルール整備が求められる。むろん各国による対策は進められており、昨今OECD加盟国などで議論されている。

 

 

 

 

現在は多額の利益をあげている国際企業に対する課税が議論されており優先度としては正しい判断だろう。消費税は地方自治体の裁量に任せた財源とすることが考えられる。

 

 

所得税累進課税

歴史を紐解くと大戦後、戦勝国英米ですら個人所得税最高税率が9割代の時代があった。特に米国は再分配の傾向を弱め続け、建国から連綿と続く「アメリカンドリーム」を育む土壌を失った。

 

 

また戦後の日本でも最高税率は85%に達する時代があった。むろん最高税率を上げるのを前提にするのではなく、憲法25条の理想を実現しうる制度は何%なら帳尻が合うのか試算していくべきだ。

 

参考までに戦後の各種税金の推移を集計してみた。

 

概ね、所得税は個人法人問わず下がり続けている。特に先述の通り分離課税(配当、譲渡益)は正当化のしようがない。一方、とりわけ目立つのは社会保険料の一貫した上昇である。いわば社会保険料は税率固定のフラットタックスなので累進性はない。所得税であれば各種控除があるので実効税率は抑えられるが社会保険料は基本的に一律である。例えば協会けんぽを想定して本人負担が国保の半額として算出すると、2016年時点で年収が500万円の所得税はせいぜい実質5%だが社会保険料は約23%となる。いわゆる「天引き」がこれにあたる。このように日本の税制は総じて逆進性を強めてきたと言ってよいだろう。

 

docs.google.com

 

なお高額所得者になるほど金融所得のうち株式譲渡が占める割合が高まっており、年間50億円超の場合は実に86.5%まで達する。

 

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金融所得課税に関する資料(東京都主税局)


こういった実態を踏まえて税制の改善を考えていきたい。

 

ベーシックインカムウィーク2019が始まります

2019年09月16日から22日にかけてベーシックインカムウィーク #basicincomeweek が始まります。

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第12回「国際ベーシックインカムウィーク」が開催決定

世界各国で様々な催しが開かれます。日本から参加できる活動を2つ紹介します。

■①プロフ画像でサポートを表明

ぜひFacebookのプロフィール写真でベーシックインカムのサポートを表明してみてください。リンク先 facebook.com から設定できます。

■②ハッシュタグでツイート

ハッシュタグ #ismoneyworking4U で自分自身の経験を発信してみましょう。

お金とは人類の創造物であって、物理法則というわけではありません。お金の価値評価・発行・分配をどう行うかは人間が決めることです。

今のお金にまつわるルールは「あなたにとって」正常に機能していますか? 自分自身や家族の人生もしくは身の回りにおいて、お金のせいで何かストレスや恥ずかしい思いをしたり、何かを失ったりした経験はありますか? あなたのツイートが、お金がより多くの人にとって正常に機能するようなルールづくりのきっかけをつくるかもしれません。

出典: 12th International Basic Income Week

■企画はまだまだ増えています

その他にも #countonbasicincome (ベーシックインカムに期待してるぜ) で写真をツイートするなど、様々な企画が進行しています。 詳しくは 12th International Basic Income Week (英語) をご覧ください。

地方創生としてのベーシックインカム

ベーシックインカムが地方創生に好影響を及ぼすのか考えてみたい。


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物価の安さが競争優位に

ベーシックインカムは全国民に統一額の給付金を渡すのが一般的な設計原則とされている。これにより、物価の安い地方に移住したほうが有利になる。

 

簡単な理屈ではあるが、しかし導入にあたって予測されるのが、各地方の物価を考慮して調整せよという指摘である。人びとの生活を支えるというベーシックインカムの性質を考えると正しく聞こえるが、はたして本当にそうだろうか。

 

答えはシンプルだ。自分が目指したい社会に即したオプションを選ぼう。現状維持で東京の一極集中を支持したければ物価調整を受け入れればよい。地方の繁栄を促したいと思うのならば物価調整は拒否すればよい。

 

 

公平な制度に保つ

物価を調整するとなると、事務方の裁量が入り込むので縄張りを拡大したい議員などは賛成に回るだろう。また多くの国会議員は物価高の東京に住んでいるのだから物価の調整に賛成するのが自然な反応だ。

よって、ベーシックインカムが地方にもたらす好影響を維持したければ、有権者による監視が欠かせない。

物価調整に限らず、もっともらしく聞こえる政策に警戒しよう。安易に賛同すると手痛い勉強代を払うことになりかねない。制度の簡潔さを損なってもあまりある利点があるか疑う姿勢をもとう。

 

 

 

 

 

 

ベーシックインカムを「最低所得」と呼ぶ利点

ベーシックインカムを直訳すると「基礎所得」やそれに類する言葉が候補に上がるだろう。

しかし、ここでは直訳ではなくUBI (universal basic income; ベーシックインカムのこと) を政策としてパッケージングするときに適切な名前を考えたい。言うまでもなく、絶妙な名称は概念の理解を容易にし、ついては政策の実現を早める可能性さえ秘めている。

最低所得の利点

結論としては、本稿では「最低所得 (minimum income)」を推したい。理由は3つある。

  1. すでに広い認知を獲得している「最低賃金 (minimum wage)」から類推できるためUBIの概要が伝わりやすい。‬
  2. 憲法第25条「健康で文化的な最低限度の生活」という条文を参照できる。国家の根幹をなす政策に適した命名である。
  3. あくまで「最低」であるため、出費に無駄がない印象を与える。ムダ遣いなのではないかという警戒を避けられる。

こういった利点から「最低所得」という名称は支持者を増やすのに有利に働くだろう。

ガイ・スタンディングの議論

ベーシックインカムの国際組織BIENの設立者であるガイ・スタンディングは著書『ベーシックインカムへの道』でUBIの名称について1節を割り当てている。 彼は「最低所得」を資産調査をともなう印象を招きかねないとして否定的に扱っている。その代わりにUBIがもつ社会正義の側面を重視して「社会配当」を推している。思想としては筋が通っており、いかにも学者好みの名称だ。しかし、一方で有権者に「よく分からない制度」という印象を抱かせてしまうのは得策とはいえない。 本項の主張としては、初期段階は《最低所得》として導入して(実際に理想とする給付額よりも少額から始めればよいだろう)、制度が成熟した頃合いを見計らって《社会配当》などより適切な用語を採用することを提案する。むろん、ミーンズテストは行わないことが前提となる。

所得補償について

なお、本ブログでは「所得補償」という呼称を用いていることもある。正確にいうとUBIは所得保障を実現する1手段として位置付けている。また、「所得補償」はUBIと性質が近しい保険商品の一般名称でもある。この点については項をあらためて議論したい。

BIEN 2019 国際会議の論文募集が開始 思想史が焦点に

英国、ケンブリッジ大学にて 2019-09-14 に開催予定の国際会議にむけて論文の募集要項が公開された。


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募集テーマは「ベーシックインカムの知的歴史」。UBIが思想や政治的にどのように発展してきたかが焦点となる。1960-70年代の産業化に呼応して、どのようにアイデアが生み出されるに至ったかなどが含まれる。

 

BIEN (Basic Income European Network) はベーシックインカムに関心のある個人や組織の交流や議論の醸成を目的に1986年より運営されている非営利組織。欧州地域を中心に2年ごとに国際会議を開いている。

 

プロポーザルの締切は2018-09-01。詳しくは Call for Papers: An Intellectual History of Basic Income から確認できる。

 

 

社会保障は避けて通れない

社会保障としてのベーシックインカム

本稿では社会保障としてのベーシックインカム について考えたい。なぜならベーシックインカムの実現には社会保障の制度変更が避けて通れないからである。

※解釈に疑念がある場合はベーシックインカムの定義も参照してほしい。

現行の社会保障はいくつかの制度から構成されている。例えば年金や健康保険などがある。ベーシックインカムが軌道に乗れば、社会保障の軸となるだろう。いくつかある制度をまとめてシンプル化するのが利点なのだから、既存の制度は置き換えないわけにはいかない。ただし、すべての社会保障制度を置き換えるわけではなさそうだ。

ベーシックインカムはいわゆる所得保障の分野の役割を果たすことを目指す制度だ。所得保障とは、具体的には年金や生活保護を指す。一方で、健康保険をベーシックインカムにカバーさせることは難しい。例えば、高額医療費制度をベーシックインカムで置き換えることが現実的だとは思えない。また、逆に所得保障の範囲外だからといって健康保険をなくすべきでもない。

オペレーション面の課題

では、ベーシックインカム社会保障の枠組みのなかに位置付けられるということは、何を意味するのだろうか。1つ言えるのはベーシックインカム社会保障に組み込むのは時間のかかる重い作業だということだ。

それはとても難しい。どれほど難しいかは、既存の社会保障改革がどれほどの大仕事かを振り返れば容易に想像できる。「税と社会保障の一体改革」について考えてみよう。なぜ税と社会保障を一緒に改革しなければならないかは簡単な話で、社会保障は国家予算の最大の支出であり、税収は最大の収入源だからである。出口を大きく変えるなら、入口も触らないわけにはいかないというわけだ。

いくら日本の内閣がころころ変わっていたとはいえ、社会保障はそれこそ内閣が吹っ飛んでしまうような課題のかたまりだった。

例えば、社会保障の1つに年金がある。2018年現在では、年金の原資は社会保険料として税金とは別立てで徴収されている。実態として強制性があるならば歳入庁として一括で取り立ててればいいという指摘もあるが、現実にはそうなっていない。財務省厚労省が別々にやっている。年金や生活保護を所得保障として一本化するのであれば、当然この整理を済ませなければ話が進まない。

日本でもようやく政治主導が板についてきたが、それでもこの手のドラスティックな変化は容易ではないだろう。少なくとも有権者からの政策への深い理解や強固な支持が必要である。なぜなら、こういったオペレーション面の改革を骨抜きにしようとする思惑により、巻き戻しやしぶとい反発といった局面も予想されるからだ。

再分配による社会設計

ベーシックインカム実現にあたって、オペレーションの改革の奥深くに、より本質的な課題も隠れている。再分配の問題である。

トマ・ピケティ『21世紀の資本』以降、米国を中心に「トップ1%」への資本の偏りが世代を超えて継承されていることが問題視されている。要するに現行の先進諸国の制度では格差は開いていく一方だということが歴史の傍証とともに示されたのだ。これを世界最先端の社会問題と呼んでもいいだろうし、構造としては貴族制に近いと形容できなくもないので古くて新しい問題とみなすこともできる。

※ピケティによる「発見」については2014年時点のTEDの動画 New thoughts on capital in the twenty-first century でも要点がまとめられている。

いずれにせよ、再分配は社会のグラウンドデザインに関わる課題であることに違いはない。早い話が、再分配とは「金持ちから貧乏人にカネを回す」政策である。それをいかに適正に行うかという知恵をこらす要素はあるが、基本的な発想としてはそんなに複雑ではない。

なぜそんなに再分配が大切なのだろうか。陳腐に聞こえるかもしれないが、まず、再分配は平和に欠かせない。極端な格差とその固定化は、戦争やテロを招く。しかし、うまく所得が再分配されていれば出自に縛られず教育やその他のリソースを入手できる。こうした教育投資効果の議論は別稿に譲りたい。

@oecdtokyo

あえて大げさに表現すれば、次の10年の未来像を決めるのは再分配の設計次第なのだ。本稿では精緻な議論はできないが、こういった共通認識がベーシックインカムを軌道に乗せるために欠かせない。

さて、制度設計にあっては下敷きとして「再分配の三角形」が適していることを示しておきたい。

参照: ‪インフレを引き起こさずにベーシックインカムを実現するには‬

この図は再分配政策の理想状態を示している。再分配の関数が満たすべき要件は次の通りだ。

  • 黄色と青斜線の三角形の面積が等しい
  • 調整後にも所得は単調増加する

青斜線の三角から黄色の三角へ所得が移動させられる。次のような疑問がわいてくる。ベーシックインカムは一律の額を支給する制度なのに、なぜグラフでは所得によって支給額に差が生じている(ように見える)のか。それは、税金の負担と相殺されているからである。詳しくは「負の所得税」の議論も参照されたい。

三角形の面積さえ等しければよいというのはかなり柔軟である。つまり、別に分配の手段はベーシックインカムでなくてもよい。効率性の観点からベーシックインカムは優勢な候補にはなるだろうが、必須の要件ではない。徴税も、所得税が現実的だが、技術が発展すれば固定資産税も視野に入るかもしれない。あるいは時間軸を伸ばして相続税をメインにすべきとの案もある。

調整後にも所得が単調増加するという要件は、働くインセンティブを確保するうえで欠かせない。現行制度は、単調増加を満たしていない「崖」と呼ばれる制度の溝がある(米国の例を下掲した)。有名どころでは、パートタイムで働くときに扶養から外れないように時間を抑えるという悪習がある。本来であれば働きたいだけ働くのが望ましい。

参照: What Would Happen If We Just Gave People Money?

三角形の面積と単調増加。この2つの要点が一目でわかるのが「再分配の三角形」の図の利点であり、議論のフレームワークとして適している理由である。

ともかく、こういった再分配への共通認識が基盤としてあればベーシックインカムを力強く推進できるであろうと筆者は信じている。たしかに難しい課題だが、取り組む価値のある課題だ。