負の所得税とベーシックインカムの違いは?
手短に要約すると、負の所得税 (Negative Income Tax; NIT) とベーシックインカム (Unconditional Basic Income; UBI) は収支面でまったく同一の制度*1だが、認識面で違いはでてくると指摘されている。
詳しくは 「なぜ負の所得税ではいけないのか」に対する回答 を参照のこと。
図は Fair Tax and Negative Income Tax より引用
なお、負の所得税を直感的に理解するには上掲の図が役立つ。収入(青線)に比べ、再配分後の所得(赤線)の傾きが穏やかになっていることが見て取れる。つまり、所得再配分により格差が是正されている。
日本円に当てはめてイメージしてみると、年収300万円以下のひとは税の 適用後に所得が増加しており、収入が0の場合でも100万円/年は所得が下限として保証されていることになる。
ここで大切なのは赤線の傾きが0を下回らないことだ。この傾きが0を下回る、つまり下降線となると「働く時間を減らしたほうが得」というインセンティブが働いてしまう。この弊害は線分のかたちから「崖 (cliff)」と呼ばれる。
例えば2017年時点の日本の社会保障制度にも崖は存在する。いわゆる社会保険の「130万円の壁」と「106万円の壁」と呼ばれるものがその代表例だ。
この「負の所得税」は高名な経済学者であるミルトン・フリードマンが支持提唱したことで幅広く知られるようになったが、アメリカをはじめとする先進各国における実務では「給付付き税額控除」として採用されている。日本でも、今後UBIを実現する手段として注目が集まるだろう。
ベーシックインカムの定義を公開 国際組織BIEN
ベーシックインカム推進の国際機関であるベーシックインカムアースネットワーク (BIEN) が明確化した定義を公開した*1。
ベーシックインカムの定義
- ベーシックインカムとは
- 定期的な現金での給付で、資産調査や労働要件なしにすべての個人に無条件に提供されるもの。
[Basic Income is] “a periodic cash payment unconditionally delivered to all on an individual basis, without means test or work requirement”
ベーシックインカムの5つの特徴
- 定期的 (Periodic): 一定の間隔で支払われる (例えば毎月ごと)。1回限りではない。
- 現金給付 (Cash payment): 交換に適しており、受領者が何に費やすか決定できるものによって支払われる。つまり、食べ物やサービス、特定の用途に限られた引換券などは該当しない。
- 個人向け (Individual): 個人に支払われる。世帯への給付ではない。
- 普遍的 (Universal): 資産調査なしにすべての人に支払われる。
- 無条件 (Unconditional): 労働要件や働く意思の実証なしに支払われる。
BIENが支持するベーシックインカム
あわせてBIENでは定義とは別に、次のようなベーシックインカムを積極的に支持することが決議された。
- 安定的な量と頻度をもつ
- 十分に高い
- 他の社会事業との協調性をもつ
- 物質的な貧困をなくすための政策戦略である
- すべての個人が社会的文化的な参加を可能とする
また、恵まれない、不安的な、低収入の人々の状況が悪化するような社会事業や給付の変更には反対するとしている。
むろんベーシックインカムがBIENの定める定義に沿っていなければならないわけではないが、国際的な議論の結果こういった定義が提唱された点は踏まえておくとよいだろう。
ベーシックインカム支持を表明している著名人たち(随時更新)
起業家*1
サム・アルトマン
- Y Combinator 社長
イーロン・マスク
- Tesla 創業者
- SpaceX 創業者
アンドリュー・グ
- Baidu 主任科学者
- Coursera 共同創業者
2/2 More than ever, we need basic income to limit everyone's downside, and better education to give everyone an upside.
— Andrew Ng (@AndrewYNg) November 9, 2016
ビル・グロス
- 投資顧問会社 Pacific Investment Management 共同創業者
レイ・カーツワイル
- 未来学者
- Singularity University 共同創業者
アルバート・ウェンガー
- シリアルアントレプレナー
- ベンチャーキャピタル Union Square Ventures パートナー
Continuations : Basic Income: The Biggest Question (Voting for...
ティム・オライリー
- O'Reilly Media 創業者
クリス・ヒューズ
- Facebook 共同創業者
ベーシックインカムはインフレを引き起こすのか
元記事: Will basic income cause inflation? | BIEN
学生たちの主張
先日、NCCU*1で行われたBIについてのディスカッションで司会を務めた。参加者はさまざまな国からの学生で、ベーシックインカム (BI) がインフレを起こすか否かで激しい議論が行われた。一部の参加者たちは購買力の向上は商品の需要を押し上げ、結果価格も上昇させると懸念を示した。物価の上昇はBIから得られる人々の購買力を徐々に下げていく。
学者たちの見解
この主張に根拠があるのかを、私は3人のBI専門家に確認を取った。『ベーシックインカムの倫理と経済理論』*2の共著者たちに、研究からBIとインフレについて尋ねた。
答えは、「場合による」だった。
総じて、物価は上昇しうるが、それはBIがどう実施されるかによるという点で学識者たちの意見は同じだった。
BI研究者はまだ誰もインフレに注視してこなかったし、物価への影響を測る十分な実験も行われたことがないため、体系だった知識は得られていない。
インフレを引き起こしうる条件とは
モンマス大学*3の経済学および金融学の教授だったスティーブン・プレスマン博士は、「理論に頼らずにインフレが起きうるかの結論を出すことはできないだろう」と語った。
ニューヨーク市立大学ハンター校*4ソーシャルワーク・シルベルマン学部准教授のマイケル・ルイス博士は「複数の変数がインフレには影響する」と付け加えた。仮にBI導入後に政府支出が削減されれば、インフレに上下両方の影響を同時に及ぼす。
プレスマンはBIによるインフレには「経済全体の状態とBIがいかに大規模に実施されるかによる」と述べた。
プレスマンによると、いくつかのシナリオが考えうる。
労働者と企業がもたらすインフレ要因
経済が完全雇用に近ければBIは「雇用よりも物価を押し上げる」。また、BIにより獲得される収入は貧困層の人々に行き渡ることから「低収入の人々は追加で得た収入を使い切ってしまいがち」であることから総支出はインフレとともに上昇していく。
供給側の視点からは2つの重要なインフレ要因がある。税金と労働者だ。
仮にBIの財源が売上税あるいはVATから拠出されるとすれば、物価上昇が起こる。また、BIが賃金上昇圧力となればなるほど、企業は「賃金上昇コストを商品価格の上昇によって顧客に転嫁しようとするだろう」。
インフレへの過剰な恐れは禁物
一方、BI以外の政府支出の削減が財源となれば、「インフレへの影響はほんのわずかゼロにとどまる」。
BIEN共同議長でジョージタウン大学SFSカタール校*5准教授のカール・ワイダークイスト博士はデンマークの経済はBI並みの福祉が労働者の利益を奪い去ってしまうようなインフレを引き起こしていないことを示しているという。
「BI支出が特別に他の出費よりもインフレを起こしやすいということはまったくない」とワイダークイストはいう。「BIによって生じるインフレ圧力を税金や借入によって中和することは、軍事費や他の出費の場合よりも容易である」。
プレスマンによると、インフレには経済にとってそれほど悪くないものもある。1990年代日本のデフレスパイラルのときのように、インフレは経済を助ける役割もするからである。
変動性のベーシックインカム
政策立案者は、BIの給付金を経済状況に応じて調整することを考えてみれば有益かもしれない。
「変動性BIも考慮に値する。失業が上昇するにつれて増加し、経済が完全雇用に近づくにつれて下がる。これはいかなるインフレ圧力も減らすだろう」とプレスマンは述べた。
さらなる研究は依然必要であるが、インフレ価格には多数の要因があるためBIは実質的にインフレーションに寄与しない。
「政策問題や財政および金融政策は、より平等な社会政策が低いインフレとの一致を確実にすることができるだろう」とワイダークイストが語った。
あわせて読みたい
*2:The Ethics and Economics of the Basic Income Guarantee (Alternative Voices in Contemporary Economics): Karl Widerquist, Michael Anthony Lewis: Amazon.co.jp: Books
*3:Monmouth University - Wikipedia
*4:ニューヨーク市立大学ハンター校 - Wikipedia
*5:Georgetown University School of Foreign Service in Qatar - Wikipedia
イーロン・マスクの発言に注目集まる「ベーシックインカム以外に手はないだろう」
イーロン・マスクの記事がRedditで話題になっている*1。
話題の記事
SolarCity、テスラ、スペースXの創業者として知られるイーロン・マスク。CNBCの記事は「コンピュータや知的能力をもった機械が人間の仕事を置き換えていき、しだいに政府が手当しなければならなくなるだろう」とした彼の主張を紹介している。そこで Redditors を歓喜させたのはイーロンが「ユニバーサルベーシックインカム以外に手はないだろう」と語ったことだ。
Redditでの反応
- 彼は "Universal Basic income" と言ったのに、この記事タイトルは彼の言葉をねじまげているな。※訳注: 記事タイトルは "イーロン・マスク: ロボットが仕事を奪い、政府があなたに賃金を払うことになるだろう"。
引用: "私たちは最終的にユニバーサルベーシックインカムかそれに類するものに行き着くと思う...自動化のせいでね。他に方法があるとは思えないよ" -- イーロン・マスク, 2016-11-04
ドッカーン! もう何年もこの展開を待ち望んでいた。
十分な余暇の聞こえはいいが、それには暗部もある。私たちは仕事を持ち、日々それを基盤とし人生の目的としているのだから
- ↑この奴隷根性は大嫌いだ。とんでもない。オレは人生に目的をもつために賃金奴隷になりたくはないね。
第17回BIEN会議がリスボアにて開催 論文とプロポーザルの募集が開始
第17回 Basic Income Earth Network (BIEN) 会議の論文とプロポーザルの募集が発表された*1。
開催要旨
会議は下記の通りポルトガルのリスボアにて開催される。
- 期間: 2017-09-25 〜 2017-09-27 (同時期開催のベーシックインカムウィークは30日まで)
- 場所: Portuguese National Parliament
- 参加費: 一般 120 EUR, 学生および失業者 80 €
募集要項
現時点では論文とプロポーザルの募集が開始されている。
- テーマ: “Implementing a Basic Income”
- 様式: 概要(300文字以内)
- 提出方法: メール bien2017.callforpapers@gmail.com に送付
キーノートスピーカー
- Evelyn L. Forget (カナダ, 経済学者)
- Elizabeth Rhodes (米国, Yコンビネータ)
- Sara Bizarro (ポルトガル)
- Louise Haagh (英国)
- Philippe van Parijs (ベルギー)
- Joe Houston (米国, NGO GiveDirectly)
- Jurgen De Wispelaere (フィンランド)
- Guy Standing (英国)
- Yanis Varoufakis (ギリシア) – 未定